魔法使いハピネス魔人。
彼女の名前はハピネス魔人。その名の通り、彼は魔法で人々を強制的に幸せの絶頂に叩き落とす悪名高き存在…かと思いきや、実はとんでもないお人好しである。
だが、「魔法少女なのに魔人」とは、これいかに。
おそらく、命名者がうっかり「魔人」と誤変換してしまったか、あるいは彼女のあまりに強烈なハッピーオーラが「魔」の域に達すると誤解されたか、その真相は定かではない。
本人も「せめて『ハピネスちゃん』とか『ハピネスエンジェル』とか、もう少し可愛らしい名前が良かったのに…」と、影でため息をついているらしい。
それも当然である。
『魔人』という物々しい二つ名を持つ彼女だが、悪事を働くどころか、困っている人を見れば放っておけない。
むしろ、頼まれる前に勝手に幸せにしてしまい、相手から「そこまでしなくていいのに…」と困惑されることもしばしば。
そんな彼女の純粋すぎる善意が、時に奇妙な混乱を引き起こすのだから、まったく、かわいそうなのか、面白いのか判断に迷うところである。
例えば、テストで赤点を取って落ち込む学生には、「ハピネス・オールナイトフィーバー!」と叫びながら、夜通し踊り狂うパーティーを強制開催。
結果、学生は翌日、疲れ果ててはいるものの、なぜか満面の笑みで「楽しかった…」とつぶやく。
しかし、パーティーの騒音で近所からは苦情が殺到し、担任の先生からは「もう少し平和的な解決策を…」と頭を抱えられる。
あるいは、「最近、運がないわ」と嘆くOLには、通勤電車を黄金の馬車に変え、道中には妖精たちのコーラス隊を配置。
会社には無事にたどり着くが、周囲の乗客は突然のファンタジー空間に目を白黒させ、「これは一体、何のドッキリだ…?」と困惑する。
もちろん、遅延証明書には「魔法による一時的な空間の歪み」としか書けないため、提出されたほうも大変困る。
そんな彼女の純粋すぎる善意が、時に奇妙な混乱を引き起こすのだから、まったく、かわいそうなのか、面白いのか判断に迷うところである。
ハピネス魔人の最大の敵は、世界征服を企む悪の組織でも、宿命のライバルでもない。
それは、彼女自身の「やりすぎ」な愛情表現と、それに振り回される人々の困惑顔なのかもしれない。
そして、今日も世界のどこかで、ハピネス魔人による予測不能な「強制ハッピーエンド」が繰り広げられている。
ハピネス魔人を始めたきっかけは、彼女自身が幼い頃に経験した、とある「悲しい出来事」に遡る。
…と言えば、いかにも悲劇のヒロイン然としているが、実際はそうではない。
正確に言えば、お気に入りのプリンを兄に食べられてしまい、その悲しみを乗り越えるために、たまたま見つけた『幸せ魔法大全』なる書物を開いたところ、
「幸せは与えられるものではなく、強制的に与えるものである!」と、どう考えても誤植であろう一文を真に受けてしまった、というのが真相である。
それ以来、彼女の辞書には「手加減」という言葉が存在しない。
「幸せ」とは、全力で、惜しみなく、そして容赦なく相手に押し付けるもの。それがハピネス魔人の流儀なのだ。
そして、その初めての犠牲者は、もちろんプリンを食べた兄である。
彼の部屋が突如、虹色の泡で満たされ、中から「プリン!プリン!世界をプリンで埋め尽くせ!」と叫ぶ妖精たちが現れた時、兄は自分の行いを深く後悔したという。
今では立派な魔法使いとなったハピネス魔人だが、彼女の魔法の根底には、幼い日のプリンへの執着と、その過程で生まれた「強引な善意」が脈々と受け継がれているのである。
彼女にとって、人々が困惑しようが、周囲が混乱に陥ろうが、最終的に満面の笑みで「楽しかった…」とつぶやくのを見れば、それは最高の「ハッピーエンド」。
今日も彼女は、誰かの心を無理やりパラダイスへと誘うために、魔法の杖を握りしめている。
次に強制的に幸せにされるのは、一体誰の番なのだろうか。
ちなみに兄はそれ以降、プリンを食べられなくなったという。
そんなハピネス魔人という魔法少女を続けてきた彼女も今年で齢30である。
30歳になったハピネス魔人は、もはや「魔法少女」というよりは、ベテランの域に達した「魔法大魔人」といった風格さえ漂わせている。
「魔人」という名前も、年を重ねるごとにしっくりくるようになったと、本人は半ば自虐的に語る。
「さすがに、この歳で『ハピネスちゃん』は無理があるわね。…まあ、『ハピネス魔人30歳』ってのも、それはそれでパンチが効いてるけど!」
彼女の「強制ハッピーエンド」の魔法も、年齢とともに進化…というよりは、むしろ熟成され、その破壊力は増すばかりだ。
かつては学生の赤点やOLの不運といった個人的な悩みに対応していたが、30歳にもなると、相談内容はよりディープに、そして人生の根幹に関わるものへとシフトする。
例えば、職場の人間関係に悩む同僚には、有無を言わさず全員を強制的に社員旅行へ連れて行き、秘境の地で「心の底から裸になれる」という謎の儀式を執り行う。
結果、確かに絆は深まったが、会社には謎の部族衣装を着た社員たちが現れ、「ハピネス魔人、今月の経費、説明してください!」と総務部から悲鳴が上がる始末である。
あるいは、結婚適齢期を過ぎて焦りを感じている友人のためには、「ハピネス・エンゲージメント・ラッシュ!」と高らかに叫び、世界中のイケメンや美女を瞬間移動で友人のリビングに召喚。
友人は選び放題どころか、突然の多国籍イケメン・美女軍団に囲まれ、恐怖のあまり押し入れに引きこもってしまう。
「幸せは選ぶものではなく、選び尽くすものよ!」とハピネス魔人は胸を張るが、友人は震える声で「もう結構です…」と力なく答えるのみだ。
そんな彼女も結婚からは程遠く、また本人は幸せなのかは謎だ。