Innocentgrand Writers

異世界の旅。まさかの転生。

ふと気づくと異世界だった。




ふと気づくとそこは異世界だった。
私は、どんな能力を手に入れたのだろうか?
異世界転生物と言えば、何か能力があるはずだ。

期待に胸を膨らませ、試しに「ステータス」と心の中で唱えてみたが、何の変化もない。
目の前の世界はただ静かで、鳥のさえずりや風の音だけが耳に届く。
焦りにも似た感情が胸に広がる。

まさか、自分だけが何の恩恵も受けずに放り出されたというのか?
そんな不安が脳裏をよぎったその瞬間、突然、視界の端に何かがチラついた。
半透明の、しかし確かな存在感を放つ四角い枠だ。それは、まるでゲームのウィンドウのように、私の目の前にふわりと浮かび上がったのである。
そこに記されていたのは、私自身の名前と、そして――

「村人A」

「……は?」
漏れ出た声は、予想以上に掠れていた。
異世界転生者の特権、チート能力、唯一無二の存在――そんな甘美な響きを想像していたのに、与えられたのは「村人A」という、物語の端役ですら数に入らないような、あまりにも無味乾燥な肩書き。
これは一体、どういう冗談なのだ?

そして気になるステータス情報がもう一つ。
「女性」

生前、私は確かに「男性」だった。
それも、週に二度はジムに通い、ベンチプレス100kgを目標に掲げていたほどの、自慢のがっちりした体躯を持つ男だったはずだ。
それが、今、ここに表示されているのは「女性」。これは一体どういうことだ?

ふと、自分の手を見下ろす。
指は細く、爪は整えられている。
かつては剣だこでごつごつしていた手のひらも、今はしっとりとして、まるで絹のようだ。
恐る恐る、自分の胸元に触れてみる。そこには、確かに今まで感じたことのない、柔らかな膨らみが存在していた。
まさか、まさか、と全身に鳥肌が立つ。
混乱と衝撃が、津波のように私を襲った。

「嘘だろ……」

無意識のうちに漏れ出た声は、これまで聞いたことのない、か細く高いものだった。
まるで別人のような声。
身体も、感覚も、全てが異質だ。
鏡がないため姿を確認できないことが、かえって想像力を掻き立て、私の恐怖を増幅させる。見知らぬ異世界に放り出されたという事実以上に、性別が逆転しているという現実に、私の自我は激しく揺さぶられた。

混乱する私の目の前に、屈強な戦士のような男性と魔法使いなどのグループ。
一目でそれがこの世界を救うべく旅をしている「勇者一行」であることがなぜか直感的に理解した。
RPGゲームやファンタジー小説で培われた知識が、この異世界に転生したことで、まるで身体に染み付いた本能のように覚醒したのだろうか。
剣を背負った金髪の麗しい青年、ローブを纏い杖を携えた神秘的な女性、そして巨大な盾を構える隻眼の重戦士……彼らの姿は、まさに物語の主人公たるオーラを放っていた。

勇者一行は、私が立ち尽くす森の小道で、何やら話し合っている。
その声は届かないが、彼らの間に流れる緊張感が、私にもひしひしと伝わってきた。
まさか、こんな場所で彼らに遭遇するとは。
「村人A」という肩書きを与えられたばかりの私が、物語の主役と出会ってしまった。
これは、幸運なのだろうか? それとも、厄介事の始まりなのだろうか?

そんな勇者一行が私に話しかけてきた。
私が発した言葉はただ一言

「ようこそ勇者様。ここは最初の町です」
の一言のみだった。